美容師として脳みその中で言語中枢をつかさどる部位が二つある。ような気がする。
一つはお客様との会話を楽しみながらライフスタイルや今の心境、要望をヘアスタイルに落とし込む。
もう一つは髪の毛との会話。
これらを同時におこないながらカットが進む。
もちろんお客様との会話はカット始まってからずっとしてる訳ではなく、そしてそれのほとんどが
割と世話話的なものが多い。
一方、髪の毛との会話はカットが始まりカットが終わるまでずっと続く。
もっともお客様との会話のように実際口に出して会話する訳ではないので先程述べた言語中枢には
正確には当てはまらないかもしれないが確かに会話する。
カットをしていると髪の毛一本一本が「ここにおさまりたいよう、ここで切って」とか
「ここはだめだよ、はねちゃうから」とか声ならぬ声で訴えかけてくるのでこれを会話と言わずして
何と言おうか。もちろん僕も「了解、この長さで切るからね」なんて返しながら仕事をするのである。
このような半分妄想のような世界観は、別にヤバい薬をやってるからではなく
美容師を20年続けてきて最近になってようやく明確になってきたような気がする。
以前はもっと朧げだったし、なにしろスタイル(形)を追ってしまうことに意識のほとんどを
費やしていたので、あまり髪の毛のパーソナルな部分は重要視してこなかった。
でも、今は写真の中のデザインよりもその人その人に似合わせた、もっと言えば
その人でしか表現出来ないオリジナルなヘアスタイル作りに気持ちがいくようになった。
それに増して最近ではおまかせのひと言で仕事が始まる事がほとんどとなり
より責任が重くなってきて、だんだんカットの思考と嗜好がそのようにかたよってきたせいもあると思う。
考えてみれば美容師が髪の毛と会話するのはごくごく当たり前のなりゆきで
職人とされる職業の人は素材と向き合い会話する事で仕事が成り立つのではないかと、、、。
料理人は食材と、大工は木材と、のように。
今日も、明日も、明後日もこれからもずっとたくさんの髪の毛と会話しながら
もっともっと髪の毛の言う事を聞いてあげられるようになりたいなあと思う今日この頃なのであります。
海に入りながら美容師としてのありかたみたいなものを、ぼんやりと考えてしまう。
そしていつも良い波に乗り損ねる(笑)